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デルフォイの神託

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【参考:日経サイエンス 2004年1月号】

原題: Questioning the Delphic Oracle

先の考古学者デ・ボーアはアポロン神殿の周囲を見渡す全体像を捉え、パルナッソス山の隆起した斜面で露出している断層が瀝青質石灰岩層を含むものであることを発見。断層に沿った活動で摩擦が生じてそれらの石灰岩が加熱される結果、石油化学成分が気化し、湧き水とともに断層を伝って地表に上ってきたという結論に達した。長い年月の間に、析出した方解石が断層内の隙間を埋めてガスの放出は減ってゆくが、断層がずれると再び放出が盛んになる...、ということは20世紀の初頭の発掘の頃には塞がった状態であったのではないか?

またどのようなガスが噴出していたのかという問題はまだ謎だった。そこでボーアはデルフォイの泉の水と、古代の泉によってできたトラバーチンのサンプルを採取し(もちろん許可を得て)、古代のガスの痕跡が見つかるのではないかと化学を専門とするチャントンを迎えた。彼はトラバーチンのサンプルからメタンとエタンを検出したので、さらに神託の行われた場所と周辺の泉からさらにサンプルを集めることにした。聖所にあるケルナの泉の分析で、メタン、エタン、エチレンが検出され、エチレンの甘い香りがプルタルコスの記述にあった高価な香水のようなにおいの裏付けとなった。

さらに毒物学者のスピラーが仲間に加わり、彼はピュティナの神懸り状態の記述がシンナー常用者の行動に似ていたことを知り、スピラーという麻酔医が行ったエチレン麻酔薬の性質に関する実験結果に注目。さらに多くの共通点を見出した。20%のエチレンは意識消失を引き起こすが、もっと低い濃度の場合はトランス状態を生み、しかも無害であったことが知られていて、トランス状態のままちゃんと座っ
て質問にも答えることが出来たという。体外遊離や陶酔感を味わった後、ガスが遮断されてその記憶を失う...といったことが実際に見られた。